世界史を、もう少し考える

高校教員が、世界史や社会学についてあれこれと書きます。(専門は社会学です)(記事の内容は個人によるものであり、所属する団体等とは一切関係はありません。)

2020-01-01から1年間の記事一覧

『オトナ帝国』というレトロトピア (第二節):なつかしさを共有できる「未来」

2. なつかしさを共有できる「未来」 2. なつかしさを共有できる「未来」 2.1 高度経済成長期の虚像 2.2 高度経済成長期の実像 2.2.1 くりかえす倒産の波 2.2.2 国民所得倍増計画がもたらしたもの 2.2.3 集団就職者が経験した高度成長期 2.2.4 「明るいお祭り…

『オトナ帝国』というレトロトピア (第一節):「昭和30年代」ブーム

1. 「昭和30年代」ブーム 最初に、この映画が生み出された背景である昭和30年代 (的なものの) ブームに触れておきたい。ゼロ年代を通じて、昭和文化を愛好するブーム、昭和30年代ブームが存在した。このブームは今日やや落ち着いているため『オトナ帝国』公…

『オトナ帝国』というレトロトピア (はじめに):『オトナ帝国』の現在性を見る

はじめに 東京オリンピックが開催されようとしている。たぶん……。おそらく……。コロナ禍という未曾有の事態のなか、日本は東京オリンピックのほかに大阪万博まで控えている。果たしてそれは成功するのだろうか……というか開催できるのだろうか…………は、私が考え…

[文献紹介] 見田宗介ほか編『[縮刷版]社会学文献事典』(弘文堂,2014)

今更『社会学文献事典』を購入したのですが、縮刷版があるならなぜもっと早く買わなかったのか……とものすごく後悔したので、紹介しておきます。図書館で利用したことは何度もあったのですが、いざ縮刷版として手元に置いてみると、そのコンパクトさと汎用性…

吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー』(河出文庫,2008) 第四章 要約&コメント

第4章 盛り場の1970年代 Ⅰ トポスとしての「新宿」—— 上演Ⅳ (p.268-95) 〇 盛り場としての新宿 ターミナル駅として栄えた新宿は、同時に盛り場としての顔も有していた。町の成り立ちに関わる遊郭、娼家、戦後産声を上げ独特の共同性を有した闇市、これらが…

吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー』(河出文庫,2008) 第二章で登場する単語の紹介

—『都市のドラマトゥルギー』第2章で登場する用語紹介— この記事では、『都市のドラマトゥルギー』2章で登場する聞きなれない単語や、江戸・明治の盛り場をイメージするうえで重要と思われる単語について解説を加えていく。ユーザーフレンドリーな気分なので…

吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー』(河出文庫,2008) 第二章 要約

第2章 博覧会と盛り場の明治 Ⅰ 原型としての博覧会—— 上演Ⅰ (p.122-54) 〇 民衆に比較のまなざしを求める博覧会 「博覧会は江戸の見世物とは本質的に異なる、新しい秩序の空間を成立させる」ものであり、それこそが近代的都市空間の原型をなしていくものであ…

インドにおけるカーストを対象とした比較社会学の再検討  (後半)

—比較社会学における問題の検討と、「人々の作り上げ」を考慮することの必要性について— Ⅲ カーストにおけるヨーロッパとインドの相互作用 ― カーストの構築性について (1) ヒンドゥー教の発見と構築 (2) 法分野におけるカーストの実体化 (3) 国勢調査におけ…

インドにおけるカーストを対象とした比較社会学の再検討  (前半)

—比較社会学における問題の検討と、「人々の作り上げ」を考慮することの必要性について— Ⅰ. 序 ― カースト研究の検討を通じて、比較社会学における課題を明らかにする Ⅱ. ルイ・デュモンの比較社会学 ― インドとヨーロッパの違いをどのように捉えるか (1) デ…

歴史における諸概念とどう向き合うか

以下の文章は、もともと古代中国における行政区分の変遷を論じる記事の冒頭となるはずでした。 残念ながらその記事はお蔵入りしてしまったのですが、最初に述べていることはまぁ大切なことなので公開しておきます。

映画・アニメ・マンガから考える、現代社会と倫理

現代社会・倫理の授業では、アイデンティティや生命倫理、哲学史などの内容を扱います。今回は、それらの内容に関わる映画や書籍を紹介することにしましょう。基本的に、高校生でも見られるもの・読めるものだけを挙げていくことにします。ブログに挙げるに…

ゲームで世界史を学べるか —『アサシンクリード・オリジンズ』を例として—②

Ⅱ 古代エジプトを歩く アレクサンドリア図書館で勉強する人々 では、ディスカバリーツアーの内容を見ていきましょう。ツアーは、画像のようにテーマごとに細分化されています。 ツアーの例ツアーの例 内容も多岐にわたっており、政治から学問、ピラミッドな…

ゲームで世界史を学べるか —『アサシンクリード・オリジンズ』を例として—①

アレクサンドリアの街並み この記事では、ゲームを使って歴史を勉強する可能性について論じていきます *1。 もちろん、歴史の学習にあたってゲームやマンガを活用することはこれまでも多く行われてきました。たとえば、ある人物を扱ったゲームやマンガを持ち…

文献紹介:大島隆『芝園団地に住んでいます』(2019)

そういえば、ちょっと前に読んでとても面白かったのに、どういうところを面白いと思ったのか書いていなかったなと思い出し……。大島隆『芝園団地に住んでいます 住民の半分が外国人になったとき何が起こるか』(明石書店,2019) を紹介してみます。 埼玉県蕨市…

今日の優生運動をどのように捉え、どのように評価するか ②

2. 以上のまとめで見逃されるもの しかし、以上のまとめ方では新旧優生運動の重要な側面をいくつか見落としてしまう、というのが私の見立てです。今日の優生運動を評価するという本記事の目的のために、前節のまとめでは捉えられていない新旧優生運動の共通…

今日の優生運動をどのように捉え、どのように評価するか ①

*2015年に作成したレポートを元にしています* Ⅰ 序 優生思想は、歴史・現代社会に関わる重要なテーマです。高校社会科でも、公民の分野において中心的に取り上げられています。本記事では、第二次世界大戦前の優生運動 (以下、旧優生運動とする) と今日の…

論文紹介 : 大久保桂子「戦争と女性・女性と軍隊」(1997)

『講座岩波 世界歴史25 戦争と平和』(1997) より「戦争と女性・女性と軍隊」を紹介します。16世紀常備軍の姿を思い浮かべるにあたって参考になる論文です。 戦争と女性というものを考えるときに、私たちは「銃後の貢献」をする姿を思い浮かべがちです *1。し…

プロパガンダの歴史 - 第一次世界大戦と映像

旧版『映像の世紀 第2集』に付録としてつけられている小冊子から、プロパガンダの歴史について話をしてみたいと思います。 『映像の世紀 第2集』は第一次世界大戦、とくにそこにおいて戦略がどのように変化したのかに注目したドキュメンタリーです。騎馬と大…

スメルサー『社会科学における比較の方法』 全体の内容と意義

先の記事では、スメルサー『社会科学における比較の方法』3章の内容をまとめました。 以下では、3章の内容と絡めながら、本書全体の議論の再記述を試み、本書の意義について検討します。

スメルサー『社会科学における比較の方法』 : ウェーバーとデュルケムの方法論的な差異について

本記事は、スメルサー『社会科学における比較の方法』(玉川大学出版部,1976=1988) 第三章「比較社会学のプログラム」の内容をまとめたものです。この記事でウェーバーとデュルケムの方法論的な差異を確認したうえで、次の記事にて本書全体の内容をまとめます…

文献紹介:木畑洋一『20世紀の世界』(2014) に関するコメント

先日、『20世紀の歴史』をまとめました。 もう少し、木畑『20世紀の歴史』について掘り下げておきましょう。 〇 コメント:本書の意義と、本書を読み解く視点 まず、本書の意義を明らかにしたうえで、次に「国民国家の形成」と「地域統合」という視点から本…

文献紹介:木畑洋一『20世紀の世界』(2014)

本書は20世紀の歴史を、植民地化されていた地域まで視野に含めながら記述しなおすものです。西洋中心の歴史観から見ると第二次世界大戦と冷戦の間には何か大きな分岐があるように見えてしまうのですが、植民地にとってはそうではありません。戦後、彼らにと…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ⑥

6. 法意識論の限界 以上で、冒頭で掲げた (1)(2)(3) の問いを法という観点から扱うことができたかと思います。(1) 法分野における近代化とは、宗教の分野が衰退し法システムが分出することに求められるが、(2) 日本においてはその分出が不十分な側面があり、…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ⑤

5. 隣人訴訟における法意識 ― 訴訟は冷淡であり、人間関係を壊すものである 訴訟回避の話に戻りましょう。穂積は個人主義的なボアソナード民法が「冷淡」であるとしたのですが、このように考える精神はどこかで訴訟回避の話へとつながっているように見えます…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ④

4. 「民法典論争」における法意識 ―「私権」は極端個人本意であり、忠孝を滅ぼすものである 紹介した青木の著書は新書でありかつ内容も平易なので、数時間あれば読むことができます。そこで、ここでは著書の内容を大きく取り上げるのは避けることとし、代わ…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ③

3. 日本人と法意識論 ― 〈これは法=権利である / そうではない〉と問う姿勢は日本に根付いたのか 村上の論の細かい妥当性はさておき、確かに日本人は訴訟という事態をアブノーマルなものと捉えているように見えます *1。それは訴訟件数を比較してみるだけで…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ②

2. 法と近代 ― ルーマンの機能分化論から まず、世界史における「近代」とは何でしょうか。それをどのようなものとして捉えればよいのでしょうか。 社会学者ニクラス・ルーマンは、近代化を諸システムの機能分化という観点から捉えました。その内容の一部を…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ①

1. 新教科「歴史総合」を見据えて ― この教科の内容を充実させるためには、何を考えねばならないか *1 新教科「歴史総合」を控えて、多くの社会科教員は少なからぬ戸惑いを覚えているかと思います。その戸惑いの内実は様々であると予想できるのですが、何よ…

文献紹介:金澤周作監修『論点 西洋史学』

本書は、歴史の概説書ではありません。歴史学における「論点」をまとめたものです。本書冒頭にも、「本書は、私たちの住む世界に多岐にわたる甚大な影響を及ぼしてきた西洋の過去に関して、真実=『正解』を求めて幾通りもの『主張』が戦わされているポイン…

なぜ、歴史を見る上で抽象的な概念化が必要なのか

さて、先の記事では政治体を捉えるための抽象的な視点を用意しました。これは歴史に関して何か具体的な事柄を教えてくれるような性質のものではありません。どちらかといえば予備的考察に属するものです。しかし、私は (プロではなくアマチュア的に) 歴史を…