ゲームで世界史を学べるか —『アサシンクリード・オリジンズ』を例として—①
この記事では、ゲームを使って歴史を勉強する可能性について論じていきます *1。
もちろん、歴史の学習にあたってゲームやマンガを活用することはこれまでも多く行われてきました。たとえば、ある人物を扱ったゲームやマンガを持ち出すことで、その人物に興味をもってもらうといったことは一般的でしょう。今であれば、世界の偉人の話をするのにスマホゲームの『FGO (Fate/Grand Order)』に触れるといったように。身近なものから話を出発させるのは大抵の場合効果的なので、学習の導入にあたっては良い方法であると思われます。
これに対して、この記事ではより積極的なゲームの活用について考えていきます。ゲームを、学習の導入として使うのではなく、学習の中心に置くことはできるか。これを検討したいと思うのです。この検討にあたっては、なによりも「ゲームでないと学べないものがあるのかどうか」を明らかにしなければなりません。もし学べる事柄に独自性が少ないのであれば、やはりゲームは興味をひくための道具でしかないことになるからです。ここで、なんとなく「ゲームというメディアにはどういう特性があるのか」という手垢のついた話をしたくなるのですが、それは避けましょう。「ゲームでないと学べないものがあるのか」という問いに対しては、具体的に「これがある」と例示していくことで答えるのが一番です。
ということで、本記事ではゲームの画像を引用しながら、具体的に「ゲームで何を学習できるのか」を考えていきたいと思います。
Ⅰ 前提説明
(1)『アサシンクリード・オリジンズ』について
本記事で紹介するのは、『アサシンクリード・オリジンズ』に収録されている「ディスカバリーツアー」というものです。
ゲームについて簡単に説明しておきましょう。『アサシンクリード・オリジンズ』(以下、『オリジンズ』) は古代エジプトを舞台にしたゲームです。下画像を見ていただければわかる通り、東はナイル下流域から西はキレナイカまで、広大なマップが用意されています。いわゆるオープンワールドになっており、この世界の端から端まで、キャラを操作して歩くことができるのです。
一応言っておきますと、マップ全域が現実そのままの大きさで再現されているわけではありません。そんなことをしたらいつまで経っても目的地にたどり着かないので……*2。しかし、部分的にはかなりこだわっており、ギザあたりに関しては大きさまでそれなりに正確につくられているようです。
時代は「紀元前49年」、古代エジプトの末期、プトレマイオス朝の末期です。もともとプトレマイオス朝はギリシア文化の影響を受けていたのですが (いわゆる「ヘレニズム」)、紀元前2世紀半ばころからはローマの干渉も受けていました。舞台となる時代においてはエジプトのローマ化もそれなりに進んでおり、アレクサンドリアの街並みからはギリシア・ローマらしさを感じることができます。また、キレナイカなどには水道橋も建設中であり、そこでもローマらしい景色を楽しむことができるでしょう *3。
なお、ピラミッドを建築していた時代からは2000年以上が経過しているため、遺跡などはすでに盗掘されていたり色彩が褪せていたり、後々の時代の人間によって手が加えられていたりします *4。
そして、すでに画像で使っていますが、このマップを歩き回りながら歴史の学習をできるモードが「ディスカバリーツアー」というものです。これは本編から独立した内容になっており、歴史の学習や観光だけを目的としています *5。各地にはテーマ別にツアーがあり、古代エジプトの遺跡から政治・経済、日常生活まで、あらゆることを学ぶことができるのです。以下、この「ディスカバリーツアー」を対象にして論を進めていきましょう。
(2) 環境の準備
さて、やや横道に逸れるのですが、本論に入る前に触れておきたいことがあります。それは、実際に学習の場で (例えば授業等で) 使うとして、準備にどれくらい手間がかかるのかについてです。どんなに良くても手間がかかりすぎるものは意味がありません。
現在、『オリジンズ』をプレイする方法は2つ。PC版を買うか、家庭用ゲーム機 (主にPS4*6 ) を利用するか。前者は、PCに対してそれなりのスペックを要求してくるので *7、大抵の場合後者を選択することとなるでしょう。
ソフトに関しては、セールの常連となっているため安価で購入できます。PC版ではディスカバリーツアーのみの購入も可能であり、つい先日まで無料配布が行われていました。PS4版も、セール時には2000円を切ることがあります。すでにPS4をお持ちの方についていえば、それほど金銭的な負担はかからないといえるでしょう (なお、PS4本体は税込み3万円強といったところでしょうか)。
PS4を持ち出す場合、本体・コントローラー・コード3本 (HDMI出力用、電源、コントローラー給電用) という構成になり、本体の大きさを気にしなければそれほど手間ではありません。HDMIが使えればどこにでも映せますし、ない場合でも変換機を挟めばいけます。
コントローラーの充電さえ済んでいればコードも2本なので、非常にシンプルな構成であるといえるでしょう。なお、コントローラーはワイヤレスなので、コードに移動を制限されるということもありません。
(3) 懸念点
ただし、学習にあたって一部懸念点もあります。ディスカバリーツアーに関しては全年齢対象なのですが、『オリジンズ』の本編ストーリーについてはZ指定です。ディスカバリーツアーのみを購入できるのはPC版だけなので、18歳以下の人に関しては興味をもっても購入できないという縛りがあります。
また、ディスカバリーツアーで全年齢向けを実現するために、ディスカバリーツアーでは一部表現に変更が加えられています。これがちょっとした論争を引き起こしました。それについては以下の記事を参照してください。
いずれにせよ、アクセスに制限がかかってしまうこと、不正確な修正がなされることについては、認識しておくべきでしょう。
こうしたことをふまえたうえで、次の記事では実際にディスカバリーツアーの内容を見ていくことにします。
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*1:なお、ここでいうゲームとはテレビゲームを指します。「モノポリーを使って経済を学ぶ」とか、そういう試みとはまた少し違った話です。
*2:https://gigazine.net/news/20191227-game-map-size/。 この記事では、80平方キロメートルあるとされています。ゲームにしては十分すぎるほどの広さでしょう。なお古代ギリシアを舞台にした『アサシンクリード・オデッセイ』は130平方キロメートルだそうです。ちなみに、私がプレイしたことのあるゲームで最大のマップは『ザ・クルー』で、面積は5000平方キロメートルとのことでした。アメリカ全土を縮小してオープンワールドにしてしまおうというこのゲームも (今回紹介する『オリジンズ』に比べると建物や地理などに不正確なところがかなり多いのですが) 観光ゲームとしてかなり楽しめます。例えば、以下の記事など。https://game.watch.impress.co.jp/docs/kikaku/1246857.html。
*3:元をたどればキレナイカ沿岸部には古代ギリシア人が入植しており、キュレネはその際に建設された都市です。アレクサンドロスがそこを征服した後、色々とあってローマの属州となりました。そのため、アポロン神殿など古代ギリシア時代からの遺跡も残っています。後に触れるつもりですが、世界史を学習するなかで気を付ける必要があるのは、「ギリシア」「ローマ」「ペルシア」「エジプト」といったものをバラバラに見てしまうと歴史や地域の状況を理解しにくくなるということでしょう。オリエントやエジプト世界における文明の芽生えからローマ帝国による干渉まで、さまざまなものが層となって堆積しているのが古代地中海世界なのです。
*4:遺跡の解体なども行われています。以下の記事を参照。 https://55096962.at.webry.info/201801/article_4.html。
*5:なお、2020年現在で「ディスカバリーツアー」が収録されているのは、ここで紹介する『アサシンクリード・オリジンズ』と、古代ギリシアを舞台にした『アサシンクリード・オデッセイ』のみです。フランス革命期を舞台にした『アサシンクリード・ユニティ』におけるノートルダム大聖堂の再現には目を見張るものがありましたが、そちらは戦闘等を避けられない仕様となっています。
*6:スイッチ版もありますが、クラウドを利用したバージョンであり、家庭外などに持ち出すのは現実的ではありません。
*7:とくにゲーミングではないノートPCの場合、グラフィックボードの部分でひっかかると思います。外付けのグラフィックボードもありますが、PS4を買ってしまった方が安く済むような気がします。