世界史を、もう少し考える

高校教員が、世界史や社会学についてあれこれと書きます。(専門は社会学です)(記事の内容は個人によるものであり、所属する団体等とは一切関係はありません。)

文献紹介:金澤周作監修『論点 西洋史学』

 本書は、歴史の概説書ではありません。歴史学における「論点」をまとめたものです。本書冒頭にも、「本書は、私たちの住む世界に多岐にわたる甚大な影響を及ぼしてきた西洋の過去に関して、真実=『正解』を求めて幾通りもの『主張』が戦わされているポイント、すなわち『論点』だけを集めた、おそらくこれまでに類書のない試みです」とあります。



 実のところ歴史について語る際に重要となるのは、「ある事件が何年に起きたか」「なんという名前の王の下で起きたか」といった事柄よりも、ある事件をどのような文脈に位置づけて、どのように理解し (どのような側面を取り出し)、説明するかということのほうです。その際に、「どの側面を取り出すのか」は可能な限り意識的に行われなければならないと私は考えています*1。ある事例に対して複数の側面があることを認めたうえで (ほかの説明も可能であったということを意識したうえで)、ある側面を選択する。そのような形で歴史に向かい合うことが、歴史の複雑さに対する正当な姿勢ではないでしょうか。

 さて、そのような視点に立ってみると、多くの概説書 (とくに一般書) は扱いにくいものに感じられてきます。そうした本のなかでは、どのような理由である側面を選択するのか、ほかにはどのような説明が可能だったのかといったことに触れられていないことが多いからです。もちろん当該領域について複数の書籍を読み比べれば良いという話になるのですが、それはなかなか骨が折れます。

 その点において『論点 西洋史学』は (高校生はともかく、教員等にとっては) 非常に有用な書籍であるといえるでしょう。歴史学における重要論点が見開き1ページでまとめられており、「複合君主政」論といった比較的新しめの項目も取り上げられています。各項目には「史実」「論点」のほか「歴史学的に考察するポイント」という問いかけも載せられており (例えば、「近世の政治秩序は、中世の神聖ローマ帝国や今日のEUとどこが異なるか」など)、この点でも教材研究に活用しやすいです。執筆者の人数も (笑ってしまうほど) 多く、本書が労作であることがうかがえます。

 本書で取り上げられている項目は、以下のサイトで確認をすることができます (https://www.minervashobo.co.jp/book/b505245.html)。お値段も専門書に比べればお手頃なので、おススメです。



論点・西洋史学

論点・西洋史学

  • 発売日: 2020/04/13
  • メディア: 単行本

*1:どこまで実行可能であるかはともかく、態度としては重要であると思っています。