世界史を、もう少し考える

高校教員が、世界史や社会学についてあれこれと書きます。(専門は社会学です)(記事の内容は個人によるものであり、所属する団体等とは一切関係はありません。)

授業案メモ : ディズニーランドにおける先住民の「展示」について

中学校・高校の校外行事では、ディズニーランドが行先の候補として挙がることが多いかと思います。しかし、校外行事とは「学習」も兼ねるもの。果たしてディズニーランドから、我々は何を学習することができるでしょうか。一例を考えてみます (あくまで骨子…

「困難校」と知識についての小話。あるいは、授業における教師の仕事とは?

いわゆる「困難校」と知識についての小話。 4000文字強あるよ。

そもそも「ゲルマン民族の移動」なるものを、そこまで重視する必要はあるのか。

先日読書会のなかで「ゲルマン諸族の移動の話って、生徒にどう伝えれば意味のあるものになるんだろうか」という雑談があった。これ、私が見る限りでは「意味がないとは言わないが、そこまで重視するものでもないし、そもそも『山川世界史B』といった教科書の…

中央ユーラシア史から見るモンゴル ー「大帝国」の来歴と内実 ⑤

5. まとめと展望 本稿が最初に掲げた問いは、(1) なぜモンゴルは、13・14世紀に人類史上最大の版図を実現しえたのか、より正確には、そもそも「人類史上最大の版図を実現する」とはどのような事態を指すのか、そして (2) 彼らはしばしば「残虐な存在」「破壊…

中央ユーラシア史から見るモンゴル ー「大帝国」の来歴と内実 ④

4. モンゴルの支配システム さて、前章ではユーラシア大陸の歴史を概観してきた。スキタイや匈奴から、金や宋まで続く長い歴史を扱ったが、朧気ながらも遊牧系王朝の基本パターンが見えてきたのではないだろうか。匈奴の作り上げた中央・右翼・左翼へと広が…

中央ユーラシア史から見るモンゴル ー「大帝国」の来歴と内実 ③

3. モンゴル帝国前夜 : 帝国システムの前身と、中央ユーラシアの多極化状況 本章ではモンゴル帝国出現前夜までの中央ユーラシア史を見ていく。ここからは、① モンゴルが拡大した前史的要因であるユーラシア大陸多極化の様相と、② モンゴル帝国の支配システム…

中央ユーラシア史から見るモンゴル ー「大帝国」の来歴と内実 ②

2.「野蛮なモンゴル」というイメージの構成 : モンゴル研究に付随する偏りについて モンゴルの歴史を見ていく前に、ここでは「野蛮なモンゴル」というイメージがどのように構成されてきたのかを論じる。そうしたイメージが形成された経緯と理由の一側面を明…

中央ユーラシア史から見るモンゴル ー「大帝国」の来歴と内実 ①

1. 本稿の問いと意義:中央ユーラシア史とモンゴルを世界史に位置づける 1. 本稿の問いと意義:中央ユーラシア史とモンゴルを世界史に位置づける 1-1. 問い:モンゴルの治世とはどのようなものであったか 1-2. 意義:中央ユーラシア史から見る世界史と、その…

中国史における都の変遷と、グローバル・ヒストリーのなかの中国 ④

4. 中国史における都の変遷 長くなったが、以上で中央ユーラシア・東部ユーラシアの相互関係史を通覧した。隋・唐代までを中心としたため、後ろの時代についての記述は薄いが、大まかな流れを確認するうえでは十分かと思う。では、以上の内容をふまえて、よ…

中国史における都の変遷と、グローバル・ヒストリーのなかの中国 ③

3. グローバル・ヒストリーのなかの中国史 以上で、中国史を位置づける枠組みを論じてきた。簡単にまとめておくと、ユーラシア大陸を一つのものとして捉える視座が重要であり、とくに東部ユーラシア (中国) の歴史は、その内部事情だけではなく、遊牧地帯と…

中国史における都の変遷と、グローバル・ヒストリーのなかの中国 ②

2. 中国史の枠組みを問う ― 妹尾達彦の歴史観変遷とグローバル・ヒストリー — 2.1 内在的変化論と外在的変化論 最初に、本稿の主な参考文献を紹介しておこう。本稿は、『岩波講座 世界歴史9 中華の分裂と再生』に収録された、妹尾(せお)達彦「構造と展開 中…

中国史における都の変遷と、グローバル・ヒストリーのなかの中国 ①

また、読書会のために10日程度で書いたものです。 受験とかで中国王朝の都を問う問題がよく出てきますが、「実際のところそれを知っていると何がわかるのか」、もう少し明瞭に言うと、「中国王朝の都は、歴史のどういった側面を反映しているのか」。これを書…

ルーマン「社会学的パースペクティブから見た規範」(1969=2015) 概要とコメント

概要 予期についての初期ルーマンの議論は有名であり、日本の法学・社会学におけるルーマン受容もこの議論あたりから始まったといってよいと思う (たぶん。ちなみに『法社会学』邦訳の出版は1977年である)。本論文が収録されている『社会の道徳』の訳者あと…

カード法の提案と、古代ギリシアの授業案 (第4節) — 結論と補足

4. 結論と補足 以上、教科書に依拠して、範囲の内容を網羅的に扱い、可能な限り楽をしながら (?) 、生徒自身に何かを考えさせ論じさせる実践を考案しました。何より重要なテキストである教科書を、しっかりと読み解くだけの読解力をつける。そのうえで、そ…

カード法の提案と、古代ギリシアの授業案 (第3節) — 古代ギリシアを例にした授業法の提案

3. 古代ギリシアを例にした授業法の提案 3. 古代ギリシアを例にした授業法の提案 3.1 導入部 (1時間) — カード作成の利点を理解する 3.2 民主政治の成立 (1時間) 3.2.1 メタ能力:文章読解 3.2.2 メタ能力:意義と限界を想像し論じる 3.3 ペルシア戦争と民主…

カード法の提案と、古代ギリシアの授業案 (第2節) — 身につけるべき能力ってなんだろう?

2. 身につけるべき能力ってなんだろう? 2. 身につけるべき能力ってなんだろう? 2.1 情報を読み解き、把握し、まとめる能力 2.2 情報を整理し、それを論理的に整序する能力 2.3 情報を意味づけ、意義づける能力 2.4 新たな情報に応じて、内容の構成を柔軟に…

カード法の提案と、古代ギリシアの授業案 (第1節) — 知識構成型ジグソー法の抱える難点

1. 知識構成型ジグソー法が抱える難点 1. 知識構成型ジグソー法が抱える難点 1.1 問いは教師が立てて良いのか 1.2 そもそも科学等において必要なのは、与えられたピースをもとにパズルを解く力ではない 1.3 対象の限定と、データベースの不在 *

カード法の提案と、古代ギリシアの授業案 (目次) — 「高校の授業において求められる能力」と「大学のレポート作成において求められる能力」の間をいかに埋めるかについての一考察

今回は授業法に関する話をしたいと思います。とくに、近年 (ずっと前から?) 流行りの協調学習だとか、協同学習だとか、対話的で深い学びだとか、そういうものの限界を指摘し対案を提示すること、それを目標とします。読書会の内容がオリエントと古代ギリシ…

文献紹介:初沢亜利『東京、コロナ禍。』 ~写真から考える、コロナ禍がもたらしたもの~

改めて緊急事態宣言が出されそうになっている今だからこそ、おススメしたい写真集があります。コロナ禍の東京の姿を、約4か月という短いスパンで切り取った、初沢亜利『東京、コロナ禍。』(柏書房,2020) です。 私も最近よく写真を撮るのですが、写真という…

『平成たぬき合戦ぽんぽこ』に見る戦後史:あるいはこの社会が通り過ぎた景色について

0. 戦後日本社会が通り過ぎてきた光景について考える 『オトナ帝国』について書いた勢いで、『平成たぬき合戦ぽんぽこ』(以下、『ぽんぽこ』) と戦後日本社会についても書いてみようと思う。この映画から、日本社会の何を考えていくことができるだろうか。 …

『オトナ帝国』というレトロトピア (おわりに):『オトナ帝国』の今日における価値と限界

おわりに:『オトナ帝国』の今日における価値と限界 さて、本記事では冒頭で『オトナ帝国』の今日における価値と限界を確認していくという目標を提示した。これを意識しながら、本記事を通じて明らかになったことをまとめておこう。

『オトナ帝国』というレトロトピア (第五節):家族というイデオロギー、『オトナ帝国』の限界

5. 家族というイデオロギー、『オトナ帝国』の限界 かなり長い道のりにはなったが、以上で我々は、イエスタディ・ワンスモアがどのような組織なのか (3節)、彼らはどのような価値観の前に敗北するのか (4節) を確認することができた。そしてその果てに、実は…

『オトナ帝国』というレトロトピア (第四節):野原一家はなぜ勝利するのか

4. 野原一家はなぜ勝利するのか 以上のように見ていくと、イエスタディ・ワンスモアはとても周到な組織であり、また彼らは近年の政治シーンをある程度まで反映した存在であると見ることができる。もちろん、製作者らが映画製作当時にどこまでこれを意識した…

『オトナ帝国』というレトロトピア (第三節):イエスタディ・ワンスモアの思想

3. イエスタディ・ワンスモアの思想 「夕やけの赤い色は思い出の色 涙でゆれていた思い出の色 ふるさとのあの人の あの人のうるんでいた瞳にうつる 夕やけの赤い色は想い出の色」 (「白い色は恋人の色」,作詞:北山修) 3. イエスタディ・ワンスモアの思想 3.…

『オトナ帝国』というレトロトピア (第二節):なつかしさを共有できる「未来」

2. なつかしさを共有できる「未来」 2. なつかしさを共有できる「未来」 2.1 高度経済成長期の虚像 2.2 高度経済成長期の実像 2.2.1 くりかえす倒産の波 2.2.2 国民所得倍増計画がもたらしたもの 2.2.3 集団就職者が経験した高度成長期 2.2.4 「明るいお祭り…

『オトナ帝国』というレトロトピア (第一節):「昭和30年代」ブーム

1. 「昭和30年代」ブーム 最初に、この映画が生み出された背景である昭和30年代 (的なものの) ブームに触れておきたい。ゼロ年代を通じて、昭和文化を愛好するブーム、昭和30年代ブームが存在した。このブームは今日やや落ち着いているため『オトナ帝国』公…

『オトナ帝国』というレトロトピア (はじめに):『オトナ帝国』の現在性を見る

はじめに 東京オリンピックが開催されようとしている。たぶん……。おそらく……。コロナ禍という未曾有の事態のなか、日本は東京オリンピックのほかに大阪万博まで控えている。果たしてそれは成功するのだろうか……というか開催できるのだろうか…………は、私が考え…

[文献紹介] 見田宗介ほか編『[縮刷版]社会学文献事典』(弘文堂,2014)

今更『社会学文献事典』を購入したのですが、縮刷版があるならなぜもっと早く買わなかったのか……とものすごく後悔したので、紹介しておきます。図書館で利用したことは何度もあったのですが、いざ縮刷版として手元に置いてみると、そのコンパクトさと汎用性…

吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー』(河出文庫,2008) 第四章 要約&コメント

第4章 盛り場の1970年代 Ⅰ トポスとしての「新宿」—— 上演Ⅳ (p.268-95) 〇 盛り場としての新宿 ターミナル駅として栄えた新宿は、同時に盛り場としての顔も有していた。町の成り立ちに関わる遊郭、娼家、戦後産声を上げ独特の共同性を有した闇市、これらが…

吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー』(河出文庫,2008) 第二章で登場する単語の紹介

—『都市のドラマトゥルギー』第2章で登場する用語紹介— この記事では、『都市のドラマトゥルギー』2章で登場する聞きなれない単語や、江戸・明治の盛り場をイメージするうえで重要と思われる単語について解説を加えていく。ユーザーフレンドリーな気分なので…