世界史を、もう少し考える

高校教員が、世界史や社会学についてあれこれと書きます。(専門は社会学です)(記事の内容は個人によるものであり、所属する団体等とは一切関係はありません。)

社会学

文献紹介:初沢亜利『東京、コロナ禍。』 ~写真から考える、コロナ禍がもたらしたもの~

改めて緊急事態宣言が出されそうになっている今だからこそ、おススメしたい写真集があります。コロナ禍の東京の姿を、約4か月という短いスパンで切り取った、初沢亜利『東京、コロナ禍。』(柏書房,2020) です。 私も最近よく写真を撮るのですが、写真という…

『平成たぬき合戦ぽんぽこ』に見る戦後史:あるいはこの社会が通り過ぎた景色について

0. 戦後日本社会が通り過ぎてきた光景について考える 『オトナ帝国』について書いた勢いで、『平成たぬき合戦ぽんぽこ』(以下、『ぽんぽこ』) と戦後日本社会についても書いてみようと思う。この映画から、日本社会の何を考えていくことができるだろうか。 …

『オトナ帝国』というレトロトピア (おわりに):『オトナ帝国』の今日における価値と限界

おわりに:『オトナ帝国』の今日における価値と限界 さて、本記事では冒頭で『オトナ帝国』の今日における価値と限界を確認していくという目標を提示した。これを意識しながら、本記事を通じて明らかになったことをまとめておこう。

『オトナ帝国』というレトロトピア (第五節):家族というイデオロギー、『オトナ帝国』の限界

5. 家族というイデオロギー、『オトナ帝国』の限界 かなり長い道のりにはなったが、以上で我々は、イエスタディ・ワンスモアがどのような組織なのか (3節)、彼らはどのような価値観の前に敗北するのか (4節) を確認することができた。そしてその果てに、実は…

『オトナ帝国』というレトロトピア (第四節):野原一家はなぜ勝利するのか

4. 野原一家はなぜ勝利するのか 以上のように見ていくと、イエスタディ・ワンスモアはとても周到な組織であり、また彼らは近年の政治シーンをある程度まで反映した存在であると見ることができる。もちろん、製作者らが映画製作当時にどこまでこれを意識した…

『オトナ帝国』というレトロトピア (第三節):イエスタディ・ワンスモアの思想

3. イエスタディ・ワンスモアの思想 「夕やけの赤い色は思い出の色 涙でゆれていた思い出の色 ふるさとのあの人の あの人のうるんでいた瞳にうつる 夕やけの赤い色は想い出の色」 (「白い色は恋人の色」,作詞:北山修) 3. イエスタディ・ワンスモアの思想 3.…

『オトナ帝国』というレトロトピア (第二節):なつかしさを共有できる「未来」

2. なつかしさを共有できる「未来」 2. なつかしさを共有できる「未来」 2.1 高度経済成長期の虚像 2.2 高度経済成長期の実像 2.2.1 くりかえす倒産の波 2.2.2 国民所得倍増計画がもたらしたもの 2.2.3 集団就職者が経験した高度成長期 2.2.4 「明るいお祭り…

『オトナ帝国』というレトロトピア (第一節):「昭和30年代」ブーム

1. 「昭和30年代」ブーム 最初に、この映画が生み出された背景である昭和30年代 (的なものの) ブームに触れておきたい。ゼロ年代を通じて、昭和文化を愛好するブーム、昭和30年代ブームが存在した。このブームは今日やや落ち着いているため『オトナ帝国』公…

『オトナ帝国』というレトロトピア (はじめに):『オトナ帝国』の現在性を見る

はじめに 東京オリンピックが開催されようとしている。たぶん……。おそらく……。コロナ禍という未曾有の事態のなか、日本は東京オリンピックのほかに大阪万博まで控えている。果たしてそれは成功するのだろうか……というか開催できるのだろうか…………は、私が考え…

[文献紹介] 見田宗介ほか編『[縮刷版]社会学文献事典』(弘文堂,2014)

今更『社会学文献事典』を購入したのですが、縮刷版があるならなぜもっと早く買わなかったのか……とものすごく後悔したので、紹介しておきます。図書館で利用したことは何度もあったのですが、いざ縮刷版として手元に置いてみると、そのコンパクトさと汎用性…

吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー』(河出文庫,2008) 第四章 要約&コメント

第4章 盛り場の1970年代 Ⅰ トポスとしての「新宿」—— 上演Ⅳ (p.268-95) 〇 盛り場としての新宿 ターミナル駅として栄えた新宿は、同時に盛り場としての顔も有していた。町の成り立ちに関わる遊郭、娼家、戦後産声を上げ独特の共同性を有した闇市、これらが…

吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー』(河出文庫,2008) 第二章で登場する単語の紹介

—『都市のドラマトゥルギー』第2章で登場する用語紹介— この記事では、『都市のドラマトゥルギー』2章で登場する聞きなれない単語や、江戸・明治の盛り場をイメージするうえで重要と思われる単語について解説を加えていく。ユーザーフレンドリーな気分なので…

吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー』(河出文庫,2008) 第二章 要約

第2章 博覧会と盛り場の明治 Ⅰ 原型としての博覧会—— 上演Ⅰ (p.122-54) 〇 民衆に比較のまなざしを求める博覧会 「博覧会は江戸の見世物とは本質的に異なる、新しい秩序の空間を成立させる」ものであり、それこそが近代的都市空間の原型をなしていくものであ…

今日の優生運動をどのように捉え、どのように評価するか ②

2. 以上のまとめで見逃されるもの しかし、以上のまとめ方では新旧優生運動の重要な側面をいくつか見落としてしまう、というのが私の見立てです。今日の優生運動を評価するという本記事の目的のために、前節のまとめでは捉えられていない新旧優生運動の共通…

今日の優生運動をどのように捉え、どのように評価するか ①

*2015年に作成したレポートを元にしています* Ⅰ 序 優生思想は、歴史・現代社会に関わる重要なテーマです。高校社会科でも、公民の分野において中心的に取り上げられています。本記事では、第二次世界大戦前の優生運動 (以下、旧優生運動とする) と今日の…

スメルサー『社会科学における比較の方法』 全体の内容と意義

先の記事では、スメルサー『社会科学における比較の方法』3章の内容をまとめました。 以下では、3章の内容と絡めながら、本書全体の議論の再記述を試み、本書の意義について検討します。

スメルサー『社会科学における比較の方法』 : ウェーバーとデュルケムの方法論的な差異について

本記事は、スメルサー『社会科学における比較の方法』(玉川大学出版部,1976=1988) 第三章「比較社会学のプログラム」の内容をまとめたものです。この記事でウェーバーとデュルケムの方法論的な差異を確認したうえで、次の記事にて本書全体の内容をまとめます…

「国」や「組織」をどのように捉えるべきか ― 自己同一性という指標

さて、アッシリアに関する記事では、「なぜ1400年も続いたのか」という問いに対して自己同一性の観点から見ていきました。自己同一性とは「自分と他人を区別し、自分が自分であると認識すること」です。先の記事では、アッシリアは土地=神アシュールを軸と…