世界史を、もう少し考える

高校教員が、世界史や社会学についてあれこれと書きます。(専門は社会学です)(記事の内容は個人によるものであり、所属する団体等とは一切関係はありません。)

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ①

1. 新教科「歴史総合」を見据えて ― この教科の内容を充実させるためには、何を考えねばならないか

*1

 新教科「歴史総合」を控えて、多くの社会科教員は少なからぬ戸惑いを覚えているかと思います。その戸惑いの内実は様々であると予想できるのですが、何よりも「歴史総合」という教科の内容の見えなさが大きいでしょう。一体、「歴史総合」とは何を扱うものなのでしょうか

 文科省が掲げていた案には、「歴史総合」とは「世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉えて,現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察する科目」とありました (文科省,2016)。要するに近現代の世界史と日本史を、「現代的な諸課題」という観点から扱えというのです。

 さて、こうした案を実現するにあたっては、(例えばそもそも「現代的な諸課題」として何を設定するべきかという点からしてもすでに) かなり多くの困難があることを予想できます。私自身は、次のことも大きな問いとして各教員の前に立ちはだかるのではないかと思っています。
 

(1) 世界史における「近代」とはなにか
(2) 日本における「近代」とはなにか
(3) それはどのように (日本/世界における) 現代の問題と関わるのか

 
 歴史総合が「近現代の歴史」に関わるものである以上、その教科の始点となる「近代」とはいったい何であるのか、教科内容の軸となる「近代」という時代はいかなる時代であるのかは、問われるべきではないでしょうか。また、世界と日本の関係を相互的な関係から捉える以上、「世界の近代」と「日本の近代」の関係も問われるはずです *2

 各教員は、ただ歴史に関わる事柄を知るだけではなく、こうした問いについて考察を求められることになります。この点で「歴史総合」は、通史・地域史など諸史学を統合させた教科である「世界史B/日本史B」とは大きく異なるのであるといえるでしょう。

 本文献案内は、上記(1)(2)(3)の問いについて、「法」という観点から一つの回答を試みるものです。今日から6日間かけて、順次公開していくことにしましょう。






参考・紹介文献 資料

青木人志 2005 『「大岡裁き」の法意識 西洋法と日本人』 光文社新書.
太田義器 2014 「近代自然法論 ―普遍的な規範学の追究」 『岩波講座 政治哲学1主権と自由』 岩波書店.
川島武宣 1967 『日本人の法意識』 岩波書店.
・小林弘 2007 「ホッブズの哲学における権利と法」 『英米文化』37 : 43-59.
・小山哲ほか 2011 『大学で学ぶ西洋史[近現代]』 ミネルヴァ書房.
・阪上孝 1988 「世論の観念について」 『經濟論叢』141(6) : 307-24.
・笹倉秀夫 2002 『法哲学講座』 東京大学出版.
佐藤俊樹 1993 『近代・組織・資本主義:日本と西洋における近代の地平』 ミネルヴァ書房.
佐藤俊樹 2011 『社会学の方法 ―その歴史と構造』 ミネルヴァ書房.
高木八尺編 1957 『人権宣言集』 岩波文庫.
・瀧井一博 2011 『伊藤博文演説集』 講談社学術文庫.
・フット 2006 『裁判と社会 —司法の「常識」再考』 NTT出版. 
・辻康夫 2014 「ロック ―宗教的自由と政治的自由」 『岩波講座 政治哲学1主権と自由』 岩波書店.
・馬場健一 2004 「訴訟回避傾向再考 ―『文化的説明』へのレクイエム」 『法社会学の可能性』 法律文化社.
・中村義孝訳 2017 「ナポレオン民法典」 『立命館法學』.
・福井康太 2002 『法理論のルーマン』 勁草書房.
穂積八束 1891 「民法出デテ忠孝滅ブ」 『法學新法 第5號』.
村上淳一 1997 『〈法〉の歴史』 東京大学出版.
森村進 2015 『法哲学講義』 筑摩書房.
ラッセル 1970 市井三郎訳『西洋哲学史3』 みすず書房.
ルーマン 2003a 馬場靖雄訳 『近代の観察』 法政大学出版.
ルーマン 2003b 馬場靖雄ほか訳 『社会の法』 法政大学出版.
ルーマン 2004 村上淳一訳 『社会の教育システム』 東京大学出版.
ルーマン 2020 馬場靖雄訳 『社会システム (上)』 勁草書房.
 
文部科学省「高等学校指導要領における歴史科目の改訂の方向性」(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/062/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/06/20/1371309_10.pdf , 2020/03/30参照).
国会図書館ホームページ「穂積八束博士論文集」(https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000001-I000000567488-00 , 2020/03/31参照).
国会図書館ホームページ「国体の本義」(https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1156186 , 2020/03/31参照).
名古屋大学大学院法学研究科「法律情報基盤」(https://law-platform.jp/ ,2020/03/31参照).
自由民主党2012「日本国憲法改正草案に関するQ&A増補版」 憲法改正推進本部 (https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/pamphlet/kenpou_qa.pdf , 2020/03/31).
・日本弁護士連合会ホームページ「弁護士白書」(https://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/publication/whitepaper.html , 2020/04/02参照).
・日本弁護士連合会ホームページ「民事司法改革と司法基盤整備の推進に関する決議」(https://www.nichibenren.or.jp/document/assembly_resolution/year/2011/2011_2.html, 2020/04/02参照).

*1:一連の記事では、「法」という観点のもとで、日本と西洋を比較することを試みています。ただし、(何分4日ほどで書いたこともあり) 内容は全く洗練されていません。本来このような議論をするのであれば、どのような理由でどの法を対象とするのか、どのような観点から比較するのかといったことを明示したうえで、比較表などを作成し、その比較が恣意的になる可能性を排除しなければなりません。そうしたことを実行できてはいないので、これはあくまでもアイディアノート的なものだと思ってください。  また、この記事の元になったレポートは、もともと青木人志『「大岡裁き」の法意識』を中心とした文献紹介として、勉強会のために作成したものです。そのため、文中では (私が未読のものも含めて) 様々なテクストを紹介するように努めました。そうした点でもやや特殊であり、かつ不十分な文章となっています。その点、ご理解ください。

*2:このように考えてみると、ある種伝統的で、ある種とても古臭い「近代論」というものに、この教科はある程度まで関わらざるをえないということになるでしょう。