世界史を、もう少し考える

高校教員が、世界史や社会学についてあれこれと書きます。(専門は社会学です)(記事の内容は個人によるものであり、所属する団体等とは一切関係はありません。)

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

プロパガンダの歴史 - 第一次世界大戦と映像

旧版『映像の世紀 第2集』に付録としてつけられている小冊子から、プロパガンダの歴史について話をしてみたいと思います。 『映像の世紀 第2集』は第一次世界大戦、とくにそこにおいて戦略がどのように変化したのかに注目したドキュメンタリーです。騎馬と大…

スメルサー『社会科学における比較の方法』 全体の内容と意義

先の記事では、スメルサー『社会科学における比較の方法』3章の内容をまとめました。 以下では、3章の内容と絡めながら、本書全体の議論の再記述を試み、本書の意義について検討します。

スメルサー『社会科学における比較の方法』 : ウェーバーとデュルケムの方法論的な差異について

本記事は、スメルサー『社会科学における比較の方法』(玉川大学出版部,1976=1988) 第三章「比較社会学のプログラム」の内容をまとめたものです。この記事でウェーバーとデュルケムの方法論的な差異を確認したうえで、次の記事にて本書全体の内容をまとめます…

文献紹介:木畑洋一『20世紀の世界』(2014) に関するコメント

先日、『20世紀の歴史』をまとめました。 もう少し、木畑『20世紀の歴史』について掘り下げておきましょう。 〇 コメント:本書の意義と、本書を読み解く視点 まず、本書の意義を明らかにしたうえで、次に「国民国家の形成」と「地域統合」という視点から本…

文献紹介:木畑洋一『20世紀の世界』(2014)

本書は20世紀の歴史を、植民地化されていた地域まで視野に含めながら記述しなおすものです。西洋中心の歴史観から見ると第二次世界大戦と冷戦の間には何か大きな分岐があるように見えてしまうのですが、植民地にとってはそうではありません。戦後、彼らにと…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ⑥

6. 法意識論の限界 以上で、冒頭で掲げた (1)(2)(3) の問いを法という観点から扱うことができたかと思います。(1) 法分野における近代化とは、宗教の分野が衰退し法システムが分出することに求められるが、(2) 日本においてはその分出が不十分な側面があり、…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ⑤

5. 隣人訴訟における法意識 ― 訴訟は冷淡であり、人間関係を壊すものである 訴訟回避の話に戻りましょう。穂積は個人主義的なボアソナード民法が「冷淡」であるとしたのですが、このように考える精神はどこかで訴訟回避の話へとつながっているように見えます…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ④

4. 「民法典論争」における法意識 ―「私権」は極端個人本意であり、忠孝を滅ぼすものである 紹介した青木の著書は新書でありかつ内容も平易なので、数時間あれば読むことができます。そこで、ここでは著書の内容を大きく取り上げるのは避けることとし、代わ…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ③

3. 日本人と法意識論 ― 〈これは法=権利である / そうではない〉と問う姿勢は日本に根付いたのか 村上の論の細かい妥当性はさておき、確かに日本人は訴訟という事態をアブノーマルなものと捉えているように見えます *1。それは訴訟件数を比較してみるだけで…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ②

2. 法と近代 ― ルーマンの機能分化論から まず、世界史における「近代」とは何でしょうか。それをどのようなものとして捉えればよいのでしょうか。 社会学者ニクラス・ルーマンは、近代化を諸システムの機能分化という観点から捉えました。その内容の一部を…

日本の近代と法意識 ― 青木人志『「大岡裁き」の法意識』(2005) から ①

1. 新教科「歴史総合」を見据えて ― この教科の内容を充実させるためには、何を考えねばならないか *1 新教科「歴史総合」を控えて、多くの社会科教員は少なからぬ戸惑いを覚えているかと思います。その戸惑いの内実は様々であると予想できるのですが、何よ…

文献紹介:金澤周作監修『論点 西洋史学』

本書は、歴史の概説書ではありません。歴史学における「論点」をまとめたものです。本書冒頭にも、「本書は、私たちの住む世界に多岐にわたる甚大な影響を及ぼしてきた西洋の過去に関して、真実=『正解』を求めて幾通りもの『主張』が戦わされているポイン…

なぜ、歴史を見る上で抽象的な概念化が必要なのか

さて、先の記事では政治体を捉えるための抽象的な視点を用意しました。これは歴史に関して何か具体的な事柄を教えてくれるような性質のものではありません。どちらかといえば予備的考察に属するものです。しかし、私は (プロではなくアマチュア的に) 歴史を…

「国」や「組織」をどのように捉えるべきか ― 自己同一性という指標

さて、アッシリアに関する記事では、「なぜ1400年も続いたのか」という問いに対して自己同一性の観点から見ていきました。自己同一性とは「自分と他人を区別し、自分が自分であると認識すること」です。先の記事では、アッシリアは土地=神アシュールを軸と…

アッシリアはなぜ1400年も "続いた" の?⑤

6. まとめと課題 ― 高校世界史におけるアッシリア像を考える 一連の記事の冒頭で掲げた二つの問いは、「アッシリアが1400年続いたとは、一体どのような事態を指すのか」「アッシリアの政策は本当に『強圧的で苛酷』なものであったのか」というものでした。こ…

アッシリアはなぜ1400年も "続いた" の?④

4. アッシリアの対外政策 ― アッシリアはバビロニアとどのような関係を結んだか 本筋に戻りましょう。本節では、ここまでで紹介したような同一性を有したアッシリアが、他地域に対してどのように関わったのかを見ていくことにします。それは、記事①で引用し…

アッシリアはなぜ1400年も "続いた" の?③

3. 神アシュール像の欠落 やや横道にそれるのですが、神アシュールと土地アシュールの結びつきを考察するうえで興味深いのが、アッシュル・バニパルの父エサルハドン (在位前668-627年) が作成した契約文書、そこにおされた印章です *1。エサルハドンは息子…

アッシリアはなぜ1400年も "続いた" の?②

2. アッシリアの同一性とはどのような性格のものであったか アッシリアについて研究している渡辺和子さんは、アッシリアの一貫性を歴史的一貫性と宗教的一貫性、そして「アッシュル」という名の一貫性に求めています (文献②:288-93)。以下では渡辺さんの他の…

アッシリアはなぜ1400年も "続いた" の?①

1. アッシリアに関する 2 つの疑問 高校1年生のときに、世界史の授業を聞いていて、疑問に思ったことが2つありました。どちらもアッシリアに関するものです。 一つ目は、「アッシリアが前 2000 年紀から前 612 年まで 1400 年近くも続いた」とは、いったいど…

世界システム論 ― バラバラではなく、結びつき互いに関係しあうものとして諸地域の状態を捉える視点

1. 本記事の目的 2. システムとは何か 3. ウォーラーステインの提示した世界史像 4. 世界システム論のなにが新しかったのか 1. 本記事の目的 ここでは、世界システム論について説明します。とくに、世界システム論における「システム」とは何を指し、それが…