世界史を、もう少し考える

高校教員が、世界史や社会学についてあれこれと書きます。(専門は社会学です)(記事の内容は個人によるものであり、所属する団体等とは一切関係はありません。)

授業案メモ : ディズニーランドにおける先住民の「展示」について

 中学校・高校の校外行事では、ディズニーランドが行先の候補として挙がることが多いかと思います。しかし、校外行事とは「学習」も兼ねるもの。果たしてディズニーランドから、我々は何を学習することができるでしょうか。一例を考えてみます (あくまで骨子のみを手短に)。

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 今回は、世界史とディズニーランドを絡めてみましょう。取り上げるのは、先住民の展示についてです。ディズニーランド内には先住民[ネイティブアメリカン]のロボットを展示しているエリアがあります (トムソーヤ島周辺)。多くの人は展示されたロボットが動く様子を見て素直に「楽しむ」わけですが、あの展示の意味を歴史とともに考えてみましょう。

(ディズニー公式による参考映像: https://www.youtube.com/watch?v=HP105rIjXzw&list=PLFE39CBED91E6A13E&index=28 )


 最初に、展示のモチーフとなっている時代を特定しましょう。実は、各アトラクションに掲げられた星条旗を見ると、そのアトラクションがそれぞれどの時代をモチーフにしているか特定することができます。細かい説明は省略しますが、『カリブの海賊』なら1820~1822年といったように。トムソーヤ島に掲げられている星条旗からは、このアトラクションが1795~1818年以降のアメリカをモチーフにしていることがわかります。

 ここまでわかれば、次はその時代前後の歴史を追い、時代背景を考えていく作業です。細かく書く時間はないので、以下調べ学習形式で注目点を3つ挙げます。

① トムソーヤ島は、アメリカ独立直後のアメリカを舞台にしている。では、1789年の独立以降、アメリカはどのように領土を拡大したか。まとめなさい。(キーワード:西部開拓、マニフェストディスティニー、孤立主義、フロンティア…)


② 先住民は、トムソーヤ島のモチーフとされる時代の前後でどのような扱いを受けたか。アメリカ独立後の先住民の歴史について、アメリカ側の政策に注目しながらまとめなさい。(キーワード:インディアン戦争、インディアン移住法、保留地、涙の道…)


③ インディアンの展示にも歴史がある。博覧会と人間の展示をキーワードに、どのような場でどのような展示が行われたかを調べ、そこにはどのような問題があるかを論じなさい。(キーワード:1889年パリ万博、1893年シカゴ万博、人類館事件、文明…)


 以上をふまえたうえで、「来場者が、先住民の生活を遠くからみて、『楽しむ』」ということの意味を考えてみると良いでしょう。これに限らず、ディズニーランドのこのエリアでは、〈未開-文明〉というコードが多用されています (近年『ジャングルクルーズ』がリニューアルされましたが、それもこのコードに関係しています)。我々はああいった場で「ハラハラドキドキな未開の世界を、安全な形で楽しんでいる」わけですが、そこに見え隠れする問題について考えられるようになるといいですね。


 なお、ディズニーは少しずつこうした問題と向き合い始めています。例えばディズニーランドのアトラクションは今後いくつかのリニューアルが予定されていますし (スプラッシュマウンテンなど)、海外版ディズニー+では『ピーターパン』といった作品を子どもが見られないように設定されています。歴史に関わる問題を認識し、対処を進めてはいるのです (例として: https://storiesmatter.thewaltdisneycompany.com/ )。歴史を理解しておかないと、こうした個々のリニューアルや配慮について、トンチンカンなことを言う人になってしまいます。基本的な知識を身につけておくことは大事ですね。



 最後に、以上で行った学習の意義を確認しておきましょう。この学習を通じて、以下の3点が達成できます。第一にアメリカ合衆国の形成過程について学ぶ、第二に歴史における被害・加害の関係を考える、第三に歴史を使って我々自身のふるまいを捉え直す。

 なお、以上の学習から発展可能な内容としては、④ 南北戦争の経緯と黒人差別や、⑤ 帝国主義と植民地といったものが考えられます。南北戦争についてはディズニーの他作品を取り上げて話もできるので、それもそのうち。