世界史を、もう少し考える

高校教員が、世界史や社会学についてあれこれと書きます。(専門は社会学です)(記事の内容は個人によるものであり、所属する団体等とは一切関係はありません。)

中央ユーラシア史から見るモンゴル ー「大帝国」の来歴と内実 ①

1. 本稿の問いと意義:中央ユーラシア史とモンゴルを世界史に位置づける

  • 1. 本稿の問いと意義:中央ユーラシア史とモンゴルを世界史に位置づける
    • 1-1. 問い:モンゴルの治世とはどのようなものであったか
    • 1-2. 意義:中央ユーラシア史から見る世界史と、その集大成としてのモンゴル帝国
    • 1-3. 本稿の構成





1-1. 問い:モンゴルの治世とはどのようなものであったか

 本稿で扱う問いは、次の二つである。(1) なぜモンゴルは、13・14世紀に人類史上最大の版図を実現しえたのか、より正確には、そもそも「人類史上最大の版図を実現する」とはどのような事態を指すのか、そして (2) 彼らはしばしば「残虐な存在」「破壊の限りを尽くす」といったイメージで語られるが、そのイメージは適切なのか *1

*1:これら2つの問いは、以前アッシリアを扱ったレポートでも取り上げた (「『アッシリア』はいかにして約1400年の『歴史』を紡いだのか」)。本稿は、同様の問いをモンゴルへと向けることで、モンゴル像の問い直しを行う。また、前回報告で用意した農牧境界地域への視座も意識しつつ (「中国史における首都変遷とグローバル・ヒストリー」)、そこで課題として残された東西ユーラシア諸地域の記述を試みる。中国王朝を中心においた前回報告では、中央ユーラシアの諸勢力が東西にどのような影響を与えたのかを俯瞰することは困難であった。今回は、中央ユーラシアとモンゴルを中心に据えることで、より積極的に農牧境界概念 (妹尾,1999/ 妹尾,2018) の重要性を記述したいと考えている。

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中国史における都の変遷と、グローバル・ヒストリーのなかの中国 ④

4. 中国史における都の変遷


 長くなったが、以上で中央ユーラシア・東部ユーラシアの相互関係史を通覧した。隋・唐代までを中心としたため、後ろの時代についての記述は薄いが、大まかな流れを確認するうえでは十分かと思う。では、以上の内容をふまえて、ようやく本稿の趣旨である「中国の都市変遷」についてまとめておこう (下表は、〔妹尾,1998:30〕より引用)。ただし、おおよその内容は出尽くしているので、簡単に済ませることにする。

  • 4. 中国史における都の変遷
  • 5. まとめと後記
    • 参考文献

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中国史における都の変遷と、グローバル・ヒストリーのなかの中国 ③

3. グローバル・ヒストリーのなかの中国史

 以上で、中国史を位置づける枠組みを論じてきた。簡単にまとめておくと、ユーラシア大陸を一つのものとして捉える視座が重要であり、とくに東部ユーラシア (中国) の歴史は、その内部事情だけではなく、遊牧地帯と農業地帯の相互作用のなかで捉えるべきだというのが、妹尾の論であった。本節では、その内容をふまえながら、中国史の再記述・整理を試みていく。まず3.1では、グローバル・ヒストリーの視座から見た、ユーラシア大陸の歴史を概観していく。そして3.2以降では、その大きな歴史との対応関係を確認しながら、中国史の各段階を記述していくことにしたい。

  • 3. グローバル・ヒストリーのなかの中国史
    • 3.1 グローバル・ヒストリーのなかのユーラシア大陸 —妹尾による世界史の三段階—
      • 3.1.1 初期国家から古典国家へ
      • 3.1.2 農牧複合国家の誕生・ユーラシア史の形成
      • 3.1.3 農牧複合国家の解体・再編、沿海地帯の発展
    • 3.2 中国大陸における古典国家の形成 — 秦・漢と匈奴
    • 3.3 古典国家の分裂から農牧複合国家の形成へ ― 漢から唐へ ―
    • 3.4 大中国と小中国のサイクル
    • 3.5 内陸から沿海へ — 都城の変容から、沿海都市網の発達まで —
    • 参考文献

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中国史における都の変遷と、グローバル・ヒストリーのなかの中国 ②

2. 中国史の枠組みを問う ― 妹尾達彦の歴史観変遷とグローバル・ヒストリー —

2.1 内在的変化論と外在的変化論

 最初に、本稿の主な参考文献を紹介しておこう。本稿は、『岩波講座 世界歴史9 中華の分裂と再生』に収録された、妹尾(せお)達彦「構造と展開 中華の分裂と再生」(妹尾,1999) に多くを拠る。とくに、妹尾は当該論文の2節にて「中国の都の立地パターン」を論じており、この内容が本稿の元になっている。

 さて、この論文は、3世紀から13世紀の東アジア史を、中国の分裂・再生・変容過程を追うことで描き出すものであるのだが、その描き出し方に一つの特徴がある。これこそが我々を先に挙げた問い (歴史を見る枠組みへの問い) へと迷い込ませるものであるため、少し詳しく見ておこう。


  • 2. 中国史の枠組みを問う ― 妹尾達彦の歴史観変遷とグローバル・ヒストリー —
    • 2.1 内在的変化論と外在的変化論
    • 2.2 内中国と外中国
    • 2.3 農耕・遊牧境界地帯
    • 2.4 境界都市とその移動
    • 2.5 グローバル・ヒストリー
    • 参考文献

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中国史における都の変遷と、グローバル・ヒストリーのなかの中国 ①

 また、読書会のために10日程度で書いたものです。
 受験とかで中国王朝の都を問う問題がよく出てきますが、「実際のところそれを知っていると何がわかるのか」、もう少し明瞭に言うと、「中国王朝の都は、歴史のどういった側面を反映しているのか」。これを書いていきます。

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ルーマン「社会学的パースペクティブから見た規範」(1969=2015) 概要とコメント

概要


 予期についての初期ルーマンの議論は有名であり、日本の法学・社会学におけるルーマン受容もこの議論あたりから始まったといってよいと思う (たぶん。ちなみに『法社会学』邦訳の出版は1977年である)。本論文が収録されている『社会の道徳』の訳者あとがきにもあるように、ここではそうしたルーマンの記念碑的な議論が、『法社会学』(1972=1977) ほど複雑ではない形で展開されている。以下では内容をかみ砕き適当な例を加えながら、その概要をまとめていくことにしたい。なお、本記事はどちらかといえば精読よりも議論の紹介に重きを置いている。そのため、内容を理解しやすくするための補足を〔〕内に加え、話の流れもところどころ整理した。そもそもちゃんと理解できているかすら怪しいので、その点注意してほしい。

  • 概要
  • コメント
    • 社会学初学者にも魅力的な観察視点の一つとして
    • 〇 具体的には、どのような観察に役立ちうるのか。
      • ① 異なる予期を抱く、異なる領域が出会う場では何が起きるか
      • ② 認知と規範を切り替えることで、何が可能になっているのか
      • ③「ふさわしい行動」の学習
      • ④ EMに関わるところでは
      • 〈参考文献〉
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カード法の提案と、古代ギリシアの授業案 (第4節) — 結論と補足

4. 結論と補足


 以上、教科書に依拠して、範囲の内容を網羅的に扱い、可能な限り楽をしながら (?) 、生徒自身に何かを考えさせ論じさせる実践を考案しました。何より重要なテキストである教科書を、しっかりと読み解くだけの読解力をつける。そのうえで、それらを整理し、あわよくばそれを使って生徒自身が物事を考える。そうした実践の可能性を提示できたかと思います。

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